実験機器は海外で製造され輸入されているものと、国内で開発製造されているものがあります。一般に、海外製造のものは、実験目的に合わせたカスタマイズが難しい、修理等のメインテナンスに時間がかかるなどの問題があります。価格的には従来、国産よりかなり高いものでしたが、最近は製品によって安いものもあるようです。国内メーカーのものは製品のカスタマイズやメインテナンスの点で海外メーカーより優れていますが、海外メーカーの装置と同じ機能のものが入手できない場合も多くあります。

 また、海外メーカーは製品を相互に融通し合って自社の商品のように販売していることが多く、一見してどこがオリジナルのメーカーなのかわからない製品もあります。国内では主に自社製品を販売するメーカー(小原医科産業、室町機械メルクエストなど)と主に海外メーカーの輸入品を販売する商社(ニューロサイエンスバイオリサーチセンター(BRC)プライムテック、など)がありますが、後者でも一部自社開発商品を手掛けているものもあります。

 以下に恣意的な分類により筆者の知る海外メーカーについて紹介したいと思います。メーカーの漏れや認識不足はご容赦いただきたく思います。

11-1 総合機器メーカー

11-1-1 Columbus Instruments

 USAにある日本でも有名な行動薬理学の総合実験機器メーカーです。迷路やオペラント実験装置から運動量測定装置、トレッドミル、呼気ガス分析装置までほとんどのものがそろっています。アンプや血圧計など生理学実験用装置も扱っています。

11-1-2 Panlab

 スペインにある行動薬理学の総合実験機器メーカーです。迷路やオペラント実験装置からトレッドミルまでほとんどのものがそろっています。2007年からシリンジポンプで有名なHarvard Bioscienceのファミリーとなり、アンプや血圧計など生理学実験用装置も扱っています。逆にPanlabの製品はHarvard Apparatusでも販売しています。かつてはColumbusは高級(高額)、Panlabは低価格というイメージがありましたが、必ずしもそうではないようです。

11-1-3 Ugo Basile

 イタリアにある行動薬理学の実験機器メーカーです。かつては、電気痙攣装置やロタロッドなどが日本では有名でした。鎮痛関係の測定機器に強いメーカーです。

11-1-4 TSE Systems

 ドイツのメーカーで行動薬理学の装置から血圧計やテレメトリーなどの生理学実験用装置までユニークな品ぞろえで、技術力があります。代理店がないため日本ではあまり使われていないようです。

11-1-5 San Diego Instruments

 USAの企業で迷路やシャトルケージなど学習関係の測定機器を多くそろえています。驚愕反応の装置などもあります。

11-1-6 IITC Life Science

 USAの企業で鎮痛関係の測定機器を多くそろえています。血圧計などもあります。

11-2 商社的メーカー

11-2-1 Harvard Apparatus

 シリンジポンプで有名なUSAの企業で、Harvard大学からのライセンスで"Harvard"を冠した社名を名乗っているようです。Harvard ApparatusはHarvard Bioscienceのメンバー企業として、他のメンバーの商品も扱い、実験機器の総合商社のようになっています。

11-2-2 Stoelting

 USAの老舗企業で、行動薬理学や生理学関係の実験機器分野で自社製品及び他社製品を幅広く取り揃えています。自社製品としては脳定位固定装置やビデオトラッキングソフトウェアANY-mazeなどがあります。ANY-mazeはこれまでの同種のソフトウェアと比べてコストパフォーマンスに優れた特筆すべき製品です。

11-2-3 Bioseb

 行動薬理学実験機器全般を扱うフランスの商社で、鎮痛関係の測定機器などに自社開発装置があります。痛みを測定するWeight bearing測定法を広いケージ内の自由走行で測定するDynamic weight bearingの装置は他社にないオリジナルです。

11-3 オペラント装置に強いメーカー

 学習・記憶の測定や不安(コンフリクト)や依存性(自己投与)の評価などに古くからオペラント実験が行われてきました。オペラントの実験装置はレバー押しの回数を測定したり、レバー押しに連動して粒餌(ペレット)を1個ずつ提供したり、電撃を負荷するなどの複雑な制御を必要とするため、研究者が手作りすることは難しく、研究者の要望に合わせて装置を製作するメーカーが育ってきました。もちろん、現在では、オペラント装置専業ではありませんが、この分野の装置に強いメーカーを以下に紹介します。

11-3-1 Med Associates

 USAにあるメーカーで、オペラント実験装置のほか、シャトルなどのアボイダンス(回避)実験装置や迷路などを開発しています。学習測定装置ではありませんが、最近では、独楽が回っているような形で回る、背の低い独特な形状をした回転かごを開発しています。

11-3-2 Lafayette Instrument

 USAにある実験機器メーカーでNeuroscience部門で行動薬理学実験機器を扱っています。他部門では、ポリグラフや人を対象とした測定機器など、ユニークな商品を扱っています。行動薬理学実験機器では、オペラントと運動量測定装置に強いメーカーで、欧州ではCampdenブランド(イギリス)で販売しています。

11-3-3 Coulbourn Instruments

 USAのメーカーでオペラントのほか、生理学実験用のアンプシステムなども扱っています。2010年からPanlabと同様Harvard Apparatusのファミリーとなり、Harvardのシリンジポンプなども販売しています。

11-4 一芸メーカー

上記オペラントと同様、行動薬理学分野で使用される実験機器で特徴的な自社開発商品を提供しているメーカーを紹介します。

11-4-1 Noldus

 オランダにある高機能ビデオトラッキングソフトウェアのメーカーとして有名です。EthoVisionはこの種のソフトウェアの代名詞的な存在になっています。画像解析の技術に優れ、近年は歩行解析のシステムCatWalkや人の顔の表情を解析するソフトウェアなども開発しています。

11-4-2 NewBehavior

 スイスのメーカーで、個体識別のタグ(transponder)で一つのケージ内にいる複数の動物を識別しながら行動を解析する装置IntelliCageを開発しました。群飼いのマウスで学習機能を自動測定する画期的な装置です。タグはネズミの皮下に埋め込みます。現状のタグはマウス用には少し大きいように感じますが、ラット用の装置も発売されています。今後のさらなる発展が期待されます。

11-4-3 Actimetrics

 USAにあるソフトウェアのメーカーでサーカディアンリズム(慨日リズム)を解析するソフトClockLabで有名です。

11-4-4 Data Sciences International

 USAのテレメトリーのメーカーです。テレメトリーは動物の体内に埋め込んだ送信機からの信号を受信し、脳波、心電図、血圧、体温などの生理的な情報を取得したり、運動量を測定することができる装置です。

11-4-5 Mouse Specifics

 USAのメーカーでマウスのフェノタイピング(phenotyping:遺伝子の表現型を解析する)のための装置を開発しています。高速撮影の画像を解析して歩行解析する装置やテレメトリーを使わず無麻酔無拘束で心電図を測定する装置などがあります。

11-4-6 Linton Instrumentation

 痛みを評価するWeight bearingの測定装置Incapacitance testerを開発したイギリスの企業ですが、幅広く他社の実験機器を販売しています。

11-4-7 Liligo Systems

 魚を対象とした行動解析装置や呼吸器計などの実験装置を開発しているデンマークのメーカーです。

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