覚醒剤、麻薬、幻覚薬、ベンゾジアゼピン系抗不安薬などの向精神薬、煙草のニコチンやアルコールなどは依存症を引き起こす依存性のある薬物です。依存症は再び摂取したいという欲求が容易に抑制できない程度に強く(精神依存)、摂取を中断し薬物が体内から消失することにより頭痛などの身体的症状(離脱症状、退薬症候)があらわれる(身体依存)、薬物の長期摂取により惹起される症状です。精神依存や身体依存が社会的に問題を起こす程度に強い薬物は規制の対象となっています。嗜好性の強い食品(美味しい食品)は依存性薬物と同様に繰り返し摂取したい欲求が惹起され、栄養素として代替作用のあるものが摂取されなければ欠乏による身体的症状も惹起されます。繰り返し摂取したい欲求を惹起する作用は強化効果(報酬効果)といい、依存性薬物が必ず有する作用で嗜好性の強い食品にも認められます。依存性薬物は摂取することが社会的な問題となり依存症でなければ摂取しないことが可能なもので、食品は摂取し続ける必要がある点に薬物と食品の違いがあります。その意味で食品が強化効果を有することは合理的ですが、飽食の時代にあっては摂取過多となるところが問題です。油や砂糖などの甘味はエネルギー(カロリー)源として摂取し続ける必要があり、ネズミの実験でも強化効果が認められています。生物の生存上まったく摂取しないことはできませんが、取り過ぎると肥満によるメタボリックシンドロームを惹起する問題があります。摂取過多による有害作用の自覚があってもやめられない点では薬物の精神依存と同様の作用があると考えることもできます。
7-1 依存性
7-1-1 自己投与
強化効果はネズミのレバー押しなどのオペラント行動を強化する、すなわち積極的に行動したくなるモチベーションを与える効果(正強化)のことで、正強化を与える刺激を正強化子と呼び、行動を起こさないようにさせる刺激(例えば電撃)を負強化子といいます。強化効果は報酬効果ともいい、正強化子を単に報酬、負強化子を罰刺激ということもあります。強化効果は薬物が依存性を惹起するために必須の作用で薬物を繰り返し摂取したいという欲求を引き起こします。この作用をネズミでは自己投与として測定することが可能です。静脈にカニュレーションをしたラットで、レバーを押すと薬物がインフュージョンポンプから自動で投与される条件でレバー押しをさせると積極的にレバーを押す薬物とレバーを押さない薬物があります。前者は強化効果があり、後者はないと判定されます。この実験でラットは投与される薬物によって何らかの快感が得られるため、積極的にレバーを押すと解釈され、このレバー押し行動を強化する効果で強化効果を測定します。摂取したい欲求が強ければ、何度もレバーを押して何度も摂取し、快感が大きければ薬物を摂取するために必要なレバー押し回数が増加してもレバーを押します。薬物が1回投与されるまでにレバーを押さなければいけない回数をFR(Fixed ratio)といい、初めはFR=1すなわち1回押せば1回投与される条件でレバー押しをさせます。FRを徐々に上げていくことによって、どの程度強化効果が強いかが評価できます。
レバーを押すことと快感が結びつかなければレバーを押すことの動機づけとなりません。薬物が投与されてから薬効発現(快感惹起)までに時間がかかるとレバーを押させることが難しいため、通常、薬物は静脈内投与されます。したがって、皮下投与や腹腔内投与と異なり薬物を溶液として調製できなければ投与することができません。無拘束でレバー押しを測定するため、カニューレを頭部より上に出しカニューレシーベルで測定ケージの上部に固定して測定します。このような手術の手技やレバー押し獲得にかなりの時間を有する難しい試験です。
薬物の自己投与では静脈内投与しますが、おなかのすいたネズミで餌は経口摂取によりレバー押しを惹起することができます。これは、餌を薬物の代わりにした自己投与の試験と考えることも可能です。薬物と異なり経口でレバー押しが獲得できる理由としては、餌は経口摂取でもすぐに摂取による快刺激(美味しい味)が得られることや餌を食べる行動が自覚的に行われるため薬物の自己投与と異なりレバー押しに対する報酬が自覚しやすいことが考えられます。自己投与でも薬物を経口摂取させれば、薬物が摂取されたことは容易に自覚されますが、薬物によってすぐに快刺激が得られなければ苦味などの味覚的な不快刺激によって自主的に摂取させることが難しいでしょう。アルコール(エタノール)は経口で自己投与しますが、訓練の初めは甘味を付けたエタノールでレバー押しをさせます。レバー押しができるようになるとエタノールだけで自己投与しますので、その頃にはラットがエタノールによって得られる快感とレバー押しを結びつけて学習できるものと思います。
7-1-2 Conditioned Place Preference Test(条件付け位置嗜好性試験)
ネズミで簡便に強化効果を評価する方法として汎用されている方法がConditioned Place Preference (CPP)法です。文字通りpreference(嗜好性)を測定する方法でそのまま強化効果とは言えませんが、強化効果を有する依存性薬物でpreferenceが認められ、強化効果のない薬物ではpreferenceを示さないか嫌悪(aversion)を示すことがわかり、強化効果を予測する方法として利用されています。
具体的には雰囲気の異なる二つの箱のつながったケージを用いてネズミに薬物投与後、片方の箱に一定時間閉じ込めます。翌日溶媒を投与してもう片方の箱に閉じ込めます。この操作を繰り返して薬物の効果と片方の箱の雰囲気を条件づけます。薬物に快刺激があればネズミは条件づけられた箱の中で快感を味わってその箱が好きになり、両方の箱を自由に行き来できる状態で滞在時間を測定すると薬物に条件づけられた箱に多く滞在するようになります。簡便な操作でラットだけではなくマウスでも測定が可能ですが、条件付けは1回30分程度で交互に3回ずつ行うことが多く、条件付けの前後で二つの箱の滞在時間を測定(20分程度)する日を含めると1回の実験には最短で8日が必要となります。測定開始前に二つの箱のpreferenceの程度(滞在時間の違い)でネズミを選別するために滞在時間の測定を数日間行ったり、測定前に箱への馴化を行ったりする場合もあり、その際には8日以上の試験期間が必要となります。試験期間の短縮のために1日2回の条件付けを行う方法もありますが、測定者がそれぞれ依存性のある薬物(陽性対照:positive control)でpreferenceが検出される条件を確立して試験することが大切です。
二つの箱はオリジナルの方法では白と黒の色の違いとざらざらとつるつるの床の材質の違いでネズミがそれぞれの箱を識別できるものが用いられていました。ネズミは色の違いを識別しにくいと言われているため、白と黒もしくは明と暗のようにはっきりと異なる2種類を用いますが、通常、暗いところを好むネズミは黒箱もしくは暗箱に多く滞在します。二つの箱へのpreferenceが大きく異なると条件付けによるpreferenceの検出が難しくなるため、粗面と滑面だけではなく金網や丸棒の格子などさまざまな床の材質を組み合わせて箱へのpreferenceのバランスをとるように工夫されています。更に、明暗による好き嫌いが生じないように箱を白黒の縞模様として、縦縞と横縞で二つの箱を識別させる方法も考案されています。二つの箱の色は同じままで床の材質だけを変えて識別させる方法もありますが、選択させる二つの箱に識別の手掛かりが少ないと、滞在時間を測定する選択試験の際に条件付けでpreferenceの生じた箱を識別できなくなる可能性も考えられます。
箱へのpreferenceは自由選択で滞在時間が長いことが唯一の指標となります。マウスやラットは新規環境で探索行動を行う性質がありますので、条件付け前の選択試行(baseline)では探索行動により好まない箱にも滞在することがあります。それぞれの箱への十分な馴化をせずに探索行動によって生じたそれぞれの箱での滞在時間をbaseline preferenceとしてしまうと、箱へのpreferenceを反映していない可能性があります。条件付けで箱に閉じ込めた際に十分な馴化が起こると、条件付け後の選択試験で探索行動による好まない箱への滞在がなくなり、条件付けにかかわらず見かけのpreferenceが変化することがあります。対策としてはbaseline preferenceの測定前に両方の箱への十分な馴化をすることやbaseline preferenceの測定を複数回(3回程度)行う方法があります。後者の方法では、baselineの変動が多い個体やpreferenceの差が大きい個体などを除外して、強化効果を検出しやすくすることができます。
滞在時間は動物がその箱にいる時間として測定しますが、中央付近にいてどちらに滞在しているか判定しにくいことがあります。また、中央付近ではマウスやラットがそれぞれの箱を識別して滞在しているのか不明です。そのような状態を避けて滞在時間がpreferenceをより正しく反映するために、二つの箱の間にneutral zoneとしての小さな箱を設置して、3個の箱からなるケージを用いる方法があります。Neutral zoneは箱ではなく通路としてトンネルにするもの、T字迷路の形状で設置してあるものなど様々ですが、近年はこのように3コンパートメント(compartments)からなるケージを使用する論文が増えています。
赤外線センサーなどによりそれぞれの箱での滞在時間を自動で測定する装置が市販されていますが、ケージがあれば、肉眼観察によりストップウォッチで計測することも可能です。通常一つのケージで複数のネズミを測定しますが、次のネズミの測定の際にはその前のネズミの臭いなどの影響が残らないようにアルコール綿などでケージを十分に拭いてから行う必要があります。条件付けは薬物投与後片方の箱へ閉じ込めるだけなので、両方の箱を同時に使用して異なるネズミの条件付けを行うことも理論的には可能ですが、条件付けの際に隣の箱のネズミの影響(臭いや音、振動など)を受ける可能性があり、このような手順で測定することは実際には難しいものと思われます。
薬物によっては滞在時間の有意な減少が観察されることがあります。滞在時間の減少は薬物が好ましくない作用を有していて嫌悪(aversion)を示したものと考えられます。このように自己投与ではaversionとpreferenceを示さないことが区別できませんが、CPP法ではpreferenceだけではなくaversionも評価が可能です。
7-1-3 身体依存
一般に依存性薬物を長期間投与し、断薬することにより生じる身体症状から身体依存を評価します。麻薬であるモルヒネ(morphine)ではマウスに1日2回10 mg/kgで5日間皮下投与し、6日目に作用部位であるオピオイドμ受容体の拮抗薬ナロキソン(naloxone)を2 mg/kg皮下投与して急激に作用を遮断することにより、短期間の実験で断薬時(withdrawal)の症状を観察することができます(1)。モルヒネの投与スケジュールは1日2回5日間20, 40, 60, 80, 100 mg/kg, i.p.と徐々に用量を増加していくスケジュール(ナロキソン0.1 mg/kg, s.c.)(2)や1日3回(8時間おき)の投与で20, 40, 60, 80, 100, 100, 100 mg/kg, i.p.と増加し最後の投与の2時間後(3日目)にナロキソン(1 mg/kg, s.c.)を投与するスケジュール(3)なども報告されています。退薬症候としてモルヒネでは下痢、体重減少や肢の振戦、跳躍、身震い(wet dog shake)などの身体症状が観察されます。
アルコール(エタノール)も長期間の摂取でラットに身体依存を惹起しますが、餌に混ぜての経口投与(4)や強制経口投与(5),(6)、気体(vapor)にして吸引させる方法(7)などがあります。投与をやめた後の退薬症候は易刺激性(触ると鳴く)、尾の固縮 、姿勢異常、振戦などが認められ重症であれば痙攣も惹起されます。
薬物によって強化効果以外の中枢及び末梢に対する作用は異なるため、薬物の影響がなくなった時の作用(離脱症状)は違います。一時的で軽微な離脱症状や、重篤でこの作用を回避するために再び摂取せざるを得なくなる断薬症候を検討する身体依存の評価方法は薬物によってそれぞれ異なってきます。
7-1-4 依存性研究のためのその他の試験
7-1-4-1 自己刺激試験
自己投与と同様な手続きでラットがレバーを押すことによって脳内に留置した電極から脳神経を電気刺激する試験があります。中脳腹側被蓋野から大脳皮質に投射するドパミン神経系(A10神経系)は脳内報酬系と呼ばれ、強化効果のある薬物はこの神経系を刺激することにより快感を惹起します。したがって、依存性薬物の投与の代わりに脳内報酬系を電極によって直接電気刺激することによっても快感を惹起することが可能で、ラットはこの快刺激を求めてレバーを押します。このような試験方法を自己刺激試験といい、報酬系の神経回路を解明する有力な手段となりました。
7-1-4-2 薬物弁別試験
薬物に快もしくは不快刺激があれば、投与によりその効果が自覚されます。依存性薬物は快刺激が自覚されることにより、再び摂取したい欲求が生じます。アルコール飲料を摂取した際の心地よさを思い出せば理解できる方は多いでしょう。アルコールやベンゾジアゼピン系の抗不安薬(睡眠薬)の摂取は少量では解放感や安心感が得られ、多量で催眠作用があります。覚醒剤は文字通り覚醒作用があり、LSDなどは幻覚を惹起し、モルヒネなどの麻薬は多幸感を惹起するといわれています。このように薬物により異なる様々な自覚効果を人では言葉により表現が可能ですが、ネズミの研究で言葉は使えません。薬物弁別試験はネズミが感じているだろう薬物の自覚効果をネズミに比較させることによって自覚効果の違いを研究する手法です。 一般的な手続きとしては、2レバーのオペラントチャンバーで生理的食塩液などの溶媒を投与したときと薬物を投与したときにそれぞれ異なるレバーを正解として、餌報酬でレバー押しをさせます。薬物(訓練薬)に自覚効果があれば、ラットは薬物投与による刺激を溶媒から弁別できるようになります。このようにして弁別が成立したラットで訓練薬と異なる薬物を投与して、どちらのレバーを押すかを測定し被験薬の刺激(被験薬投与時の自覚効果)が訓練薬と類似しているかどうかを判定します。被験薬で訓練薬と同じレバーへの反応が見られれば、被験薬の刺激が訓練薬に般化したといいます。詳しい方法は、「4.抗認知症薬各条 4-4-2 薬物弁別(Drug discrimination)」を参照してください。
7-2 嗜好性
7-2-2 選択試験
マウス・ラットでどちらが好きか、すなわち嗜好性を調べる方法として選択試験があります。食べ物や飲み物を二つ以上提示してどれを多く摂取するかを測定する単純な方法です。この試験はネズミがより好きな方を多く摂取するとの前提で行われていて、この前提が崩れれば結果の解釈が正しいとは言えなくなります。そのために、実験手続きでなるべくこの前提が崩れないように注意しながら行う必要があります。例えば、2種類の液体を摂取させる二瓶選択試験で二瓶を同時に提示すると、たまたま好きな場所に置かれた片方の瓶の液だけを飲む可能性があります。短時間の試験であれば最初に接触した瓶だけから飲む可能性もあります。これらの対策としては、試験にある程度の時間をかけて、一定時間で瓶の位置を交換することが考えられます。新規恐怖(neophobia)という現象が知られていて、色、臭い、形、味などでなじみがない食べ物に対しては警戒を示してなかなか摂取しません。したがって、選択試験では可能な限り選択する被験物質の外形を同じにしたり、予め馴れさせておくなどの工夫も必要です。
液体だけではなく固体の食品(餌)でも複数の種類のものを提示して摂取量を比較することが可能です。摂取量は天秤を使って手動で測定することも可能ですが、液体であればドリンコメーター(滴下センサー検出もしくは重量測定式)、固体であれば摂餌量測定装置などを使用して測定することも可能です。また、短時間の液体の摂取は液体の供給される飲み口(ノズル:spout)を何回舐めたかを測定するリッキングメーター(リッコメーター:lickometer)による測定も行われています。
あまりにも多くの選択肢があれば選択試験で適切に識別して嗜好性の高いものを摂取することが難しくなるかもしれません。また、選択試験では、相対的な嗜好性を示していて、選ばれなかったものに対して全く嗜好性がないとはいえません。選択試験とは異なり、順番に何種類かの液を1本ずつ提示してそれぞれの摂取量から嗜好性を判定する試験もあります。1種類ずつの提示であれば少しでも嗜好性のあるものは摂取されるものと思われますが、提示の順序によって影響を受ける可能性が考えられます。同じ物質で濃度を変える場合は濃度の低いものから順に提示し、異なる物質の比較では提示の順番を変えて繰り返し試験をして結果の平均から評価するなどの対策が考えられます。
選択試験ではより好きな方を多く摂取するという前提で試験を行うと述べましたが、ネズミはより嫌いな方を摂取しないと考えることもできます。その場合、選択された方も嫌いではないだけで好きではない可能性もあります。その際には、全体の摂取量が減少することが考えられますし、それぞれ単独で与えればどちらもあまり摂取しないという結果が得られるかもしれません。高脂肪食は美味しくて嗜好性が高く、高脂肪食と低脂肪食を同時に与えると高脂肪食が多く摂取されます。しかし、それぞれ単独で与えれば、重量当たりのエネルギーが高い高脂肪食の摂取重量はあまり多くはありません。この場合、高脂肪食のカロリーが高いことを知っている我々は摂取重量ではなく、摂取カロリーで比較することが正しいと考えることができます。同様に摂餌量を重量で比較すると食品の水分含量で文字通り重量が水増しされていることもあります。このように重量で測定した摂餌量に影響を与える要因が容易に理解できる場合には正しく評価することが可能ですが、食品中に食欲を抑制する作用物質がある場合にはいかがでしょう。当然、摂取量は減少しますが、その結果が食品に対する嗜好性の低下と判定することはできません。選択試験であれば両者の摂取量が減少し、少ないながら相対的に嗜好性がわかるかもしれませんが、両者ともに嗜好性が低いと判定される可能性もあります。このように、選択試験で得られる摂取量の比較はその測定条件における摂取量の差を示しているだけで、結果を嗜好性と判定する前にそれぞれ慎重な検討が必要です。
7-2-3 強化効果の測定
依存性薬物と同様に自己投与やCPP法により食品の強化効果を測定することが可能です。摂餌制限でおなかがすいたラットやマウスは餌を報酬としてレバー押しをしますので、その意味ではおなかがすいているネズミにとって餌には強化効果があるといえます。同様に絶水でのどが渇いていれば、水が強化効果を有することになります。このような特別な処置をしなくても油や甘味(砂糖水)には強化効果があることが知られています。すなわち、CPP法でのpreferenceや油を報酬としたレバー押しが認められています。 強化効果がある食品は摂取によって快刺激を与えていると判断できますので、選択試験と異なりこの結果からその食品には高い嗜好性があると容易に判定することが可能です。
7-3 おわりに
強化効果を簡便に評価するCPP法が開発され、依存性薬物だけではなく油などの食品成分や鍼などでも強化効果を発揮することが報告されています。これまで強化効果は精神依存を引き起こす薬物の作用として研究されてきましたが、その物質を摂取するための行動(ラットではレバー押しなどのオペラント行動)を強化するという意味では、依存性薬物に限らず摂取したいと思う物質、例えば美味しい食品などに強化効果があるのは道理です。鍼などの受けたい刺激(気持ち良くなる刺激)によって強化効果が検出されることも納得がいくことでしょう。
煙草やコーヒーなど嗜好品と呼ばれるものには強化効果のある成分(それぞれニコチンとカフェイン)が含まれていますが、言葉の使い方における嗜好性と依存性の境界はあいまいなものです。一般的に精神疾患では社会生活をおくるうえで障害となる程度に症状がみられるときに治療対象として疾患と定義します(「1.抗不安薬 1-2-4 Marble burying test(ビー玉埋め法)」参照)。依存性も、やめられないことが社会生活に影響する程度に問題であれば依存症として治療の対象になり、そのような症状を引き起こす性質を嗜好性ではなく依存性と呼んでいると考えることができます。最近ではパチンコ依存症や買い物依存症などの言葉もあって、やめられないことによる問題から依存性の言葉が用いられているようです。ニコチン(煙草)やアルコールなどには依存性があるといっても違和感はありませんが、脂肪を多く含む美味しい食品は依存性があるとは言わず嗜好性が強いといいます。ニコチンやアルコールなど摂取しなくてよいものと、健康上必ず摂取しなければならない脂肪(必須脂肪酸)の違いはありますが、健康への悪影響(メタボリックシンドロームなど)がわかっていても高脂肪食品の摂取が止められない現象が広く知られていくようになれば、高脂肪食にも依存性があるという言葉が違和感なく使用されるようになるかもしれません。